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大阪高等裁判所 昭和63年(行コ)56号 判決 1989年9月13日

京都市下京区若宮通北小路下ル井筒町六五二番地

控訴人

古田延二

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市下京区間之町五条下ル大津町八番地

被控訴人

下京税務署長

竹見富夫

右指定代理人

田中慎治

宇野一功

藤本繁光

松原一敏

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人に対し昭和五六年一〇月三一日付けでした控訴人の昭和五三年分、同五四年分及び同五五年分所得税にかかる各更正処分のうち原判決添付別表1の確定申告欄記載の各総所得金額を超える部分並びに各過少申告加算税賦課処分を取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり訂正、付加、削除するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目表八、九行目の「本件係争各年文」を「昭和五三年分、同五四年分及び同五五年分(以下、これらを「本件係争各年分」という)」と、同一〇行目の「本件処分」を「昭和五六年一〇月三一日付けで原告の本件係争各年分所得税にかかる各更正処分並びに各過少申告加算税賦課処分(以下、これらを「本件処分」という)」と、同一一行目の「異議申立」を「異議申立て」と、同二枚目裏四行目の「付記」を「附記」とそれぞれ訂正する。

2  同三枚目表三行目と四行目の間に「1(一)法が更正処分の通知書に理由の附記を義務づけているのはいわゆる青色申告者に対する更正の場合に限られているから、本件処分に理由が附記されていないとしてもなんら違法ではない。」を加え、同四行めの「1」を「(二)」と、同五行目の「原告方」を「原告の事業所」と、同三枚目裏五行目の「算出」を「その」と、同四枚目表四行目の「不服申立」を「不服申立て」と、同四枚目裏四行目の「算出」を「その」とそれぞれ訂正し、同五行目の「算出」を削除し、同一〇行目の「事業総所得金額」を「事業所得金額」と訂正する。

3  同五枚目表一行目の「主張するような」の次に「手続上の」を加え、同二行目の「事業総所得金額」を「事業所得金額」と訂正し、同行目の末尾に「における総所得金額」を、同三行目の「上回っており、」の次に「本件処分に所得の過大認定の違法はなく、」を、同五枚目裏八行目と九行目の間に「原告の主張する必要経費の額は争う。」をそれぞれ加え、同一〇行目の「異議申立」を「異議申立て」と訂正する。

4  同六枚目表三行目の「する。しかし、」を 「するものであるが、」と訂正し、五行目の「最小限のもので、」の次に「それが直ちに」を、「金額の全体」の次に「であるという趣旨のもの」を、同六行目の「諸経費」の次に「の金額」を、同七行目の「おいて」の次に「その援用する」をそれぞれ加え、同八行目の「原告の」から同一〇行目末尾までを「それが原告の総収入金額の実額であって、右経費実額(必要経費)と対応するものであることをも立証しない限り、右経費実額の立証によっては、推計による原告の事業所得金額の認定を覆えすことはできないというべきである。」と訂正し、同一一行目の「原告」の前に「しかるに、」を加え、同行目の「係争年」を「係争各年」と、同六枚裏二行目の「帳簿類」を「帳簿書類等」と、同三行目の「提出しない」を「提出し、総収入金額の実額を立証しようとしない」とそれぞれ訂正する。

5  別表1の「異議申立」欄を「異議申立て」欄に、別表2の「算出所得率」欄を「同業者所得率」欄に、同表注2の二行目の「係争年」を「係争各年」と、別表5中の「金沢鉄工所」を「金沢鉄工所製」と、同表注2の二行目の「仕入先」を「購入先」と、別表7注3の二行目の「年分にき」を「年分につき」とそれぞれ訂正する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加、削除するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七枚目表五行目の「異議申立」を「異議申立て」と、同八行目の「調査について」を「手続上の違法の主張について」と、同九行目及び同七枚目裏五、七行目の各「付記」をいずれも「附記」とそれぞれ訂正し、同裏七行目の「決定」を削除し、同九行目の「理由」から末尾までを「本件処分に理由附記不備の違法はない。」と訂正し、同一〇行目の「原告は、」の次に「抗弁1前段の事実、すなわち、」を加え、同一一行目の「原告方」を「原告の事業所」と訂正する。

2  同八枚目裏二行目の「本件係争」を「、原告の本件係争各年分の所得税に関し申告所得金額が適正なものかどうか調査に来た旨来意を告げ、右」と訂正する。

3  同九枚目裏二行目の「被告の」から同五行目の「担当者の」までを「権限ある税務職員が税務調査を行う際に、被調査者に対し、その旨を事前に通知するかどうか、具体的な調査理由を告知するかどうか、第三者の立会いを許容するかどうか、反面調査をいつどのような方法で行うか等実定法上特段の定めのない実施の細目については、調査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の」と、同六行目の「五四年(行ツ)第二〇号」を「四八年七月一〇日決定・刑集二七巻七号一二〇五頁、同裁判所」とそれぞれ訂正し、同八行目の「徴すると、」の次に「被告の」を加え、同九行目の冒頭から同行目の「開示せず」までを「原告の事業所に臨場し、前認定の理由以外に特に具体的な調査の理由を告げず」と、同一〇行目の冒頭から同一一行目末尾までを「み、反面調査を行ったことが、右のとおり同調査担当者に委ねられた合理的な選択・裁量の範囲を逸脱した違法なものであるということは到底できないから、右調査の違法をいう原告の主張は採用するに由ないというほかはない。」とそれぞれ訂正する。

4  同一〇枚目表一行目の「原告が」の次に「被告の」を加え、同二行目の「資料に基づいて」を「書類や領収証等の原始記録を提示せず」と、同行目の「説明」から同四行目冒頭の「え」までを「説明しなかったのであるから、被告において」とそれぞれ訂正し、同五行目の「原告が」から同六行目の「理由がなく、」までを削除し、同六行目の「手続的瑕疵」を「手続上の違法」と訂正し、同一一行目の「原告」の前に「成立に争いのない甲六四一号証及び」を加え、同一〇枚目裏三行目の「四月」を「五月」と訂正する。

5  同一一枚目表一行目の「一ないし三」の次に「並びに弁論の全趣旨」を加え、同行目の「その主張のとおり、」を「原告と類似する同業者の所得率を把握するため、大阪国税局長の発した通達に基づき、」と、同四行目の「不服申立」を「不服申立て」と、同五行目の「訴訟を提起していない」を「訴訟が係属中でない」とそれぞれ訂正し、同六行目の「範囲内」の次に「(これは、本件係争各年分につき原告の売上金額が最も多い昭和五四年分の約一五〇パーセントを上限とし、売上金額が最も少ない昭和五五年分の約五〇パーセントを下限としたものである。)」を、「同業者を」の次に「機械的に」を、「抽出し、」の次に「その売上金額、売上原価及び一般経費に関する」を、同八行目の「同業者は、」の次に「いずれも」をそれぞれ加え、同九行目の「青色申告でその数値は正確で、」を「帳簿書類の備付けを義務づけられた青色申告書による納税者でその申告が確定している者であるから、同申告決算書に記入された数値の正確性は高いものということができ、かつ、」と、同一〇行目の「ものである」を「ものであって、抽出された同業者数(昭和五三年分は二六名、昭和五四、五五年分はいずれも二九名)も優にその個別性を平均化するに足りるものということができる」と、同行目の「同業者」から同一一行目の「所得金額」までを「同業者の所得率(ただし、その算式は〔(売上金額-売上原価-一般経費)÷売上金額〕)を算定し、これに基づき原告の本件係争各年分の事業所得の金額(ただし、その特別経費を控除する前のもの)」とそれぞれ訂正する。

6  同一一枚目裏一行目の「真実に合致する蓋然性が高く、」を削除し、同二行目の「相当であり、」から同三行目末尾までを「相当である。」と、同四行目の「算出所得率」を「右同業者所得率」と、同四、五行目の「算出所得金額」を「本件係争各年分の事業所得の金額(ただし、その特別経費を控除する前のもの)」とそれぞれ訂正し、同五行目の「別表2」の次に「の算出所得金額欄記載」を、同八行目の「支払利息」の前に「原告の本件係争各年分の」をそれぞれ加え、同行目の「雇人費について」を「雇人費の各金額については」と、同九行目の「限度では」を「限度で」とそれぞれ訂正し、同行目の「争いがなく」の次に「(別表2及び5ないし7参照)」を、「以上の」の次に「特別」をそれぞれ加える。

7  同一二枚目表二行目の「別表5の注1」を「別表8の2<19>」と、「事業経費」を「昭和五四年、五五年分事業所得にかかる必要経費」と、同五行目の「支払利息(別表5の注2)は」を「利息の支払(別表8の3)の事実については」と、六行目の「右主張に副う部分は」を「にこれに沿う供述部分があるけれども、その」と、同九行目の冒頭から同一二枚目裏八行目の「主張は、」まで全部を「外注工賃にかかる原告の主張(別表8の2<22>)中、被告主張額を超える部分については、」と、同一〇行目の「原告」から同一三枚表一行目末尾まで全部を「なお、前掲乙二号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告主張の減価償却費は、被告主張の事業所得金額の推計計算上、前示同業者所得率算定のための一般経費中に包摂されているものであることが認められるから、これを特別経費として別途計上すべきものでないことは明らかである。」とそれぞれ訂正する。

8  同一三枚目表三、四行目の「係争年」を「係争各年」と訂正し、同四行目の「原告の」から同五行目の「宇治にあり、」までを削除し、同行目の「妻は、」の次に「原告の事業に専従せず、」を、同八行目の「控除の」の次に「各規定の」をそれぞれ加え、同九行目の「係争年分」を「係争各年分」と訂正する。

9  同一三枚目表一一行目冒頭から同一五枚目表一〇行目末尾まで全部を、次のとおり訂正する。

「第四 再抗弁について

原告は、別表8の1ないし4のとおり、被告主張の本件係争各年分の売上金額と同額の金額(ただし、被告が昭和六二年一〇月二一日付け準備書面をもって山中隆一に対する売上金額を追加主張する前の金額)を原告主張の売上金額として援用したうえ、被告の推計にかかる必要経費の額を大きく上回る必要経費の額を具体的に主張するとともに、その立証として、仕入関係の請求伝票、納品伝票等の原始記録を提出し、これによって被告の推計課税の適法性を争っているので、以下この点について判断する。

一 原告の右主張は、被告の本件推計課税における推計方法の合理性それ自体を直接争うものではなく、要するに、原告の所得の実額が被告の推計課税によって算定された所得金額よりも少額であること、換言すれば、被告の推計による所得金額の認定が過大であることを実額をもって立証することにより右推計課税が違法であって維持できないことを明らかにしようとするものであるが、所得金額が総収入金額から必要経費を控除した金額であるところからすれば、原則として、必要経費の実額のみならず、総収入金額の実額をも立証することによって、算出された所得金額が所得の実額であることを明らかにするのでなければ、右主張を根拠あるものとすることはできないといわなければならない。

もっとも、本件においては、被告は、原告の売上金額を推計により算出して主張しているわけではなく、反面調査等によって把握しえた個々の取引先からの個別的な売上金額を特定して主張しており、原告はこれを自白しているのであるから、それを合計したものが総収入金額であるかのように窺われないわけではない。しかしながら、被告の主張する原告の売上金額になお少なからぬ計上漏れの疑いがあるような場合においては、原告が所得の実額の主張立証によって被告の推計課税の適法性を争うには、必要経費の実額の立証のみならず、右売上金額の合計額以上の売上が存在しないことをも具体的に立証して右の疑いを払拭することを要するものといわなければならない。けだし、一般に、総収入金額と必要経費との間には一定の対応関係が存在するものであるから、少なからぬ計上漏れの疑いがあるような売上金額をそのまま総収入金額とし、これから必要経費の実額を控除して算出される金額をもって単純に所得金額の実額もしくはこれに近似するものとしたうえ、それを推計によって算定された所得金額と対比することにより推計の適法性を判断することができないことは明らかだからである。

二 そこで、本件についてこれをみるに、

1 被告が主張し原告がこれを自白している前記個別的売上金額が、被告において反面調査等により捕捉し得た限りの金額にすぎないものであって、被告としてもそれが原告の売上金額の総てであって他に売上は存在しないと主張する趣旨のものでないことは、弁論の全趣旨に照らし明らかなところであり、成立に争いのない乙四二号証並びに弁論の全趣旨によれば、現に被告は、本訴提起後の調査により、新たに本件係争各年分にかかる山中隆一に対する売上金額を把握するとともに、この金額を追加主張していることが認められるのである。

2 原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告の売上の多くは小切手による取引(被告主張の売上金額はいずれもこの小切手による取引にかかるものである。)で、原告はその取立てのために京都中央信用金庫駅前支店の口座を利用していたが、その他に、小口とはいえ現金による取引も少なくなかったこと(ちなみに、前掲乙四二号証によれば、原告において明らかに争わないから自白したものとみなされた前示被告の追加主張にかかる山中隆一に対する売上金額も、この現金取引の一例である。)、原告は、これらの現金で受領した売上金をその都度右口座に入金することはせず、これをそのまま仕入先等への支払に充てたりしていたことが認められる。

また、成立に争いのない乙四一号証の一、二、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本訴提起後の被告の調査により、原告が前記口座の他に京都相互銀行宇治支店にも普通預金口座(但し、昭和五五年九月一一日に開設したものである)を有し、この口座に額面一八万二三〇〇円の第三者振出しの小切手が入金された事実があったことが判明したことが認められるのであって、この事実よりすれば、本件係争各年において売上金が入金される原告の取引銀行が京都中央信用金庫駅前支店のみであったのかどうかについても疑いが残るものといわざるを得ない。

3 原告は、前記のように、被告主張の本件係争各年分の売上金額と同額の金額(ただし、被告が昭和六二年一〇月二一日付け準備書面をもって山中隆一に対する売上金額を追加主張する前の金額)をもって売上金額の総てであると主張し、かつ、それを立証すべき資料として、本件係争各年当時からその売上にかかる帳簿等及び現金出納帳を記帳し、現に右帳簿書類及び売上関係の伝票等の原始記録を保管している(原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によりこれを認める。)にもかかわらず、これら売上関係の帳簿書類及び原始記録を証拠として提出しようとしない(このことは記録上明らかである。)のであって、この点から、原告の売上金額の合計額が被告主張の額より上回るものであり、原告においてそのことをことさらに秘匿することを意図しているものと推認するもやむなしといわざるをえない。

4 しかして、以上の諸点を総合すると、被告主張の前記個別的売上金額の合計額は原告の本件係争各年分事業所得にかかる総収入金額の実額を意味するものではなく、なお少なからぬ計上漏れのある疑いが存するものというよりほかはない。しかるに、原告が、必要経費の実額について主張しその証拠資料を提出するのみで、被告において主張しかつ原告が自白している前記個別的売上金額の合計額以上の売上が存在しないことについて、その証拠資料が手許に存在するにもかかわらず、なんら立証しようとしないことは前記のとおりである。

三 そうすると、前示のところからして、原告の必要経費実額の立証それ自体の成否について判断するまでもなく、被告の推計課税の適法性を争う原告の主張は、これを採用することができないといわなければならない。」

10 同一五枚目表一一行目の「認定の」の次に「原告の本件係争各年分の」を加える。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山忍 裁判官 藤原弘道 裁判官 川勝隆之)

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